彼女

2005年7月18日
 だれかと、とても深く込み入った話や、心に染み入るような会話をする事ができた日は、家に帰ってからもその余韻に浸ってしばらく普通の自分にもどれない。
 だれでもそんなところは あるだろうけど。

今日はある経済的事情をかかえて、ついに家を手放す事になったいとこの家で話してきた。

彼女は、引越しの準備の最中で、二階の見晴らしのいいベッドルームに座り込んで整理中であった。

「ここは本当にいいへやなのよ。」
と何度も何度も繰り返した。

 南と東に大きな窓があり、納戸や衣裳部屋、ちいさな書斎コーナーがあって築13年たった今でも色あせて見えなかった。
 この夏、そこを明け渡し借金を清算して、70歳前半の夫と60才半ばの彼女は、賃貸マンションで人生をやり直す。

 彼女の夫はアルツハイマーをわずらっている。
 私の母とおなじだ。母よりまだ軽度だけど。

 「私のこれからの人生は○○チャン(夫をこう呼ぶ)に賭ける。この人にできる限りの事をしてやりたい。」

 きっぱりした口調で彼女は言った。
 物なんて少ないほうがいいとも。
 ほんとにそう思う。

 おしゃべりをしている間にもうお昼御飯の時間になった。

 「おおい。」
  和室から夫の呼ぶ声がした。

 「はあい。」
 彼女は急いで降りていった。わたしも後についていった。

 彼女は夫の頬を両手で挟んで語りかけた。
 ご主人は嬉しそうに微笑んでなにやら答えた。
 
 このふたりは 本当に求め合っているとおもった。
 
 家にもどり台所の食卓にすわったまま、しばらくは
 動けなかった。あの光景、彼女の言葉が心にずしんと
 残ったまま。
 
 私は 彼女が好きだ。
 60歳を過ぎても、社交辞令ばかりが上手になるのではなく
 本音できっぱり物事を語れる。
 自分の考え、自分の失敗、今自分にとって大事な事をはっきりさせている。
 自分をはっきりさせている人はいい。
 
 私と彼女との物理的距離は遠くなるけれど、これからも
 彼女とのつながりを求めていこうとおもった。
 

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