母がしまっていきました。
 
これは母ぐらいの年令の人がつかう、このあたりの方言です。
でも母の最期はこの言葉がぴったりします。

最後は食べることとの戦いでした。

食べたいから食べるのではなく、食べたくないから食べないのでもなく。

ほんとうのところは母に聞いて見ないとわかりませんが
私や義姉やスタッフさんたちが、口に入れる食べ物を
必死で食べようとする母の姿が目に焼きついて離れません。


流動食が鼻の頭にちょんとついたり、あごまでべちょべちょになったり
入れたと思ったら、反対側から漏れだしたり
食事を介助するということは、両手をフルに働かせ
お絞りタオルやタオルを何枚もべとべとにして
ようやく終える1日の三度の一大行事でした。

すっと食べ物がのどを通っていくということが
どんなに楽なことか
母はそれが徐々に困難になっていきました。
それでも母はそれに取り組むのです。
こちらがギブアップした日もありました。

でも日によって、ある程度は食べられたという日や
完食できた日もあってこうして命を守り続けていたのですが
とうとうそれができなくなる日が来てしまいました。

直接の死因はわかりません。

急性心不全という病名がつきました。

でもその日の朝食もあと二口というところまで
いったそうです。

きっと必死で食べたことでしょう。

私は、その二日前に母に最後の食事介護をしました。
すこし食べ終えた後、目を瞑っていました。目を瞑るのは
いつものことです。しばらく待っていると
突然、はっきりと目をあけて私を見ました。
そんなことはほとんどなくなっていたので
私は驚いたと同時にうれしくて母にだきつきました。
母は顔をくちゃくちゃにして
泣き出しそうな顔になり大きな声を絞り出しました。

あの泣き出しそうな顔はなんと言いたかったのでしょう。

わかりません。
でも、訴えたかったことがあるのだと思いました。
思いたかった。

まだ 母がなくなって1日しかたっていません。

特に施設にはいってからの10ヶ月。
母に会うことはいつも別れを意識しつつ
あたらしい幸せをかんじることだった。

幸せはいろんなところにあった。

「ありがとう。」と搾り出すように感謝の言葉を言う母。
音楽のCDをきかせると
首をふりながら片手で指揮をするしぐさをすることが
わかった日。
こんなに病気が進行していても、懐かしい音楽が
母の頭のなかに流れて何かを変えることができるとわかった日。

母が食べることに全力で立ち向かっているあいだに
体のどこかで動きが止まってしまって
母はしまっていきました。


我慢強かった
私の母は もういません。




コメント

アミ
2013年3月30日5:38

お悔やみ申し上げます!

私の母は、亡くなって、もう30年以上経ちます。
それでも、毎日、何かしら、母のことを思わない日はありません。
saraさんも、きっと、そうなるでしょう。
お寂しいですね!
でも、お母様は、いつもsaraさんと一緒です!

siniy
2013年3月30日10:35

saraさん・・

心よりご冥福をお祈りいたします。

このDNの数ある日記の中で偶然saraさんのお部屋に辿り着き、
お母様を想われる優しいお気持ちに心打たれ・・
それから ずっとずっと・・このsaraさんのお部屋は、
私の大切な場所となりました。

どうか saraさんもお疲れがでませんように。
くれぐれもご自愛くださいませ。

むささび
2013年3月30日10:41

saraさん、お母さんに触れることができなくなってさみしいですね。でもずっとずっと近くにいらっしゃることと思います。これまで通りお母様を笑顔にする人生をsaraさんが送ることが一番の親孝行。お母様、お疲れ様でした…。

メイ
2013年3月30日20:13

saraさん

随分前のことになりますが、saraさんが、お母様とお風呂でご一緒にすごされた時間をとても嬉しそうに書かれていたことをよく覚えています。
お母様に寄り添う溢れんばかりのsaraさんの温かいお気持ちと、そこに流れる静かな時間が映像のように浮かんで、、こちらまで幸せな気持ちになりました。

いろんなところにあった幸せ は、
お母様からsaraさんへの精一杯のプレゼントかも。
お元気だった頃のお母様の笑顔とともにいつしか素敵な思い出になるといいですね。

こころよりご冥福をお祈り申上げます。

ミハーハハ
2013年3月30日21:56

sara さん
お母様のお話を読むたびに私も自分の母を重ねていました。ずっとお母様と寄り添っていらしたsaraさんのお気持ちを思うと涙が止まりません。お寂しいですね、おつらいことでしょうね。毎日毎日お母様とずっとお話なさってくださいね。今までと同じように心が通じあっていますよ。私は何の宗教も持ちませんが、母がなくなっても、いつも身近に感じるんですよ。
saraさんのお母様もきっとすぐ側においででしょうね。

心よりご冥福をお祈り致します。

Mimi
2013年3月30日22:31

sara さん

心よりお母さまのご冥福をお祈り致します。

sara さんが、愛情をこめてずっと寄り添っていらして、
ますます心が通い合って距離が縮まって、
お母さまはお幸せだったでしょうね。
お辛いと思いますが、お母さまとの思い出を宝物に、がんばってください。

sara
2013年3月31日8:22

みなさまへ

皆様からコメントを頂き、温かいお気持ちにふれ、ほっとしてなきました。
ともだちっていいなあと心からおもいます。本当にありがとうございました。


私が日記をはじめた動機は母の病気でした。
まだ元気だったころ、母は
「わたしがどうなっていくのか、すごく怖い。」
といったことがありました。

目の前に広がる大きな闇を見ていたのでしょう。

自分の病気について語ったのはこれ一回きりです。

病気に対しては本当に口惜しいという思いがありますが、
母をまるごと受け入れ、包むことができて幸せでした。

この経験はきっとこれからの人生に役立つことでしょう。

それがわたしが母から受け取った大きなプレゼントです。

日記を書き続けることができてよかったと思います。
おひとりおひとりへのコメントにならなくてすみません。

これからも どうぞよろしくおねがいします。

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